講師:神渡良平先生
ゲスト:滝田栄さま
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第22回のゲスト講師、滝田栄様は、舞台『レ・ミゼラブル』の主演を14年間務めたほか、大河ドラマ「徳川家康」や映画『不撓不屈』で主演されるなど、日本を代表する名優。
また俳優の仕事のみならず、執筆、講演などに幅広く活躍され、座禅と朝粥の会主宰、抜刀術四段、陶芸、それに仏像制作に邁進されています。
”僕は、一つの役、一人の人間を演じる時、その人を動かしている力がどのような力なのかを考えることがあります。愛なのか憎しみなのか、愚かさなのか賢さなのか、欲望なのか叡智なのか、などなどその人を動かしている根本的なエネルギーの質を探し出すわけです。”(「滝田栄、仏像を彫る」毎日新聞社)
滝田さんは、「徳川家康」で主演するにあたって、役どころをつかむために26巻ある山岡荘八の原作をすべて読み、幼年期の家康が人質として預けられた臨済宗のお寺に数週間籠ります。
”家康のときは人物をつかむのに本当に苦労しました。信長や秀吉はある程度想像できても、家康の場合、どういう心がその人生を動かしたのかがどうしてもわからない。考えあぐねた末、わらをもすがる思いで臨済寺を訪ねたわけです。
臨済寺は臨済宗の和尚を養成する寺で、山門のなかにはぴちっと張りつめた空気があり、400年以上前の竹千代の時代と何も変わっていないという感じでした。
ところが、その 空間に身をおき原作を読み返しても、やはりわからないんですね。もうどこかに消えてしまいたい心境でした。”
そんなときに寺の長老からかけていただいた一言ですべてが氷解したといいます。
”「・・・・解りました、全てが解りました。家康を動かした力と、あの沈黙と忍耐の謎も解けました。・・・・大丈夫です。もうどこにいても何をしても家康でいられます!」
私は打ち震えるような興奮を抑えてお礼を述べて下山し、撮影に入りました。”
若かった頃は、人の苦しみや悲しみなんてものに思いがいたっていなかったという滝田さん。恰好よく見せてやろうという思いが全身を支配していて、人間のドラマであるということがどこかに飛んでしまっていたそうです。
そんな滝田さんの気持ちを氷解させた老師の一言とはどんなものであったのでしょう?
”私は、人生という旅に出て、多くの人を観、多くの人を演じることでさまざまな人生を体験した。
しかし、人を観るということは、結局は真実の己を深く観察し、本当の己の在り方を見つけ出す、本当の己を知ることであった。”
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◆プロフィール
滝田 栄 様
(俳優 仏像彫刻 仏教研究)
1950年、千葉県生まれ。文学座養成所から劇団四季を経て独立、現在に至る。
テレビでは『草燃える』『なっちゃんの写真館』『マリコ』『徳川家康』など多数主演。また『料理バンザイ』の司会を20年間つとめた。舞台『レ・ゼラブル』主演ジャン・バルジャンを初演より14年間演じる。
2002年~2003年 インドに渡航。仏教の研究
2006年 映画『不撓不屈』で主演。2006年、2007年、2008年 奈良薬師寺にて技楽『三蔵法師求法の旅』を主演。
2013年 東日本大震災の大津波による被災者の供養のため宮城県気仙沼市に[気仙沼みちびき地蔵堂]を建立。宗派を超えて、仏教が出来うる全ての供養と、再生再起の祈りを捧げています。([気仙沼みちびき地蔵堂]の命名は薬師寺村上太胤副住職)
《主な著書》
『滝田栄仏像を彫る』(毎日新聞社出版)
新版 古寺巡礼奈良『唐招提寺』巻頭エッセイ(淡交社)